「これは僕がはじめて買ったクラッシュのシングルだね。」

そう話すのは、クラッシュの登場から約10年後にイギリスを席巻したバンド、ストーン・ローゼスの元ギタリスト、ジョン・スクワイアだ。

「学校が終わって、グリーンのブレザーを着たまま、パープルのドロップ・ハンドルの自転車で、街で二番目のレコ屋まで駆けていったんだ」

うん、この人もだ。クラッシュとの出会いを語るとき、みな、まるで童貞喪失の思い出を語るように、その時期は勿論、ディティールをやたらと詳細に、目の前に情景が浮かぶかのように語りだす。まぁ、間違いじゃぁない。恋する相手が、女の子かクラッシュかっていうだけの話。世代を代表するギター・ヒーローとなったジョンだけに、バンドのギタリスト、ミック・ジョーンズの姿は特に思い入れがあるようだ。

「ミックが、ギブソンでソロを弾く。彼は僕が本当によく聴いたギタリストの一人で、彼が僕にギターを教えてくれたようなものだね。ノー・クラッシュ、ノー・ローゼス、だよ。」

2nd辺りでのギター・ソロの弾き倒しっぷりなんかは、ジミー・ペイジにも例えられることもあったジョンのギターだけれども、ダンス・ミュージックにいち早く接近した、単純なギター・ロックとは異なるアプローチは、パンク・ロックの音楽性をディスコやダンスフロアに融合させていったミック・ジョーンズに影響を受けているというのは、なるほど頷ける話。

話をシングルに戻そう。タイトルA面曲”Remote Control”は、タイトルの通り、リモート・コントロール=社会や権力によってリモコン操作されるパンクスの状況と怒りを訴える、レベル・ミュージックだ。前進はない、不満も言えない、どこにも行けない、抜け出せない、袋小路に陥ったワーキング・クラスの状況を、切々と歌う、蟹工船もびっくりの、ワーキング・プア・ナンバーだ。再びジョンの言葉を。

「雇用、抑圧、ロンドン政府なんてものは、僕の人生で全く関心外のものだったけれど、市民ホールだとか、Delekだとか、ビッグ・ビジネスだとか、上院議会だとか、そういった言葉を組みあせていった、参照点にあふれた歌詞は、僕の頭にこびりついていた、ビーチ・ボーイズ的なものを掃き飛ばしてくれたんだ。その上、サウンドも、歌詞で歌われるそのもののような音だったからね。

Delekというのは、SF作品「ドクター・フー」に登場する殺戮ロボット。この曲の最後のコーラスで、このように歌われている。「抑圧―Dalekになる 抑圧―ロボットになる 抑圧―服従するんだ "ex-ter-mi-nate!"」−皆殺しを合言葉に自分以外の生命体を滅ぼそうとするDalek。権力に縛られ、それに服従することは、人の心を無くし、ストリートに生きる貧しい労働階級の人間にとっては殺人機械同然。けれども、決してこの曲はネガティブ・スパイラルに陥るだけの歌ではない。ただただキツイ状況を挙げていくことで、支配階級や議会といった戦うべき相手を、しっかりと見定めさせようとしている。薄っぺらい逃避の言葉やキャッチフレーズ的な応援はないけれど、たった一言、ジョーは力強いメッセージを忍ばせている。

"Don't wanna be dead" −死にたいなんて、思うんじゃねえぜ。

■the clash / Remote Control



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