イワホリ ごめん、話それたね。ま、でもさ、泣いた?
アオキ お恥ずかしながら「教会どおりに〜♪」でぽろっと(笑)。
イワホリ はっええ!
アオキ まさか「感極まる」前に涙出るとは思わなかった(笑)。いや、でもそれっきり。あとずーっと笑ってた気がする。「やっと会えた!」とか「なんてココロを揺さぶる素敵な声!」って感慨じゃないんだよね。
イワホリ 俺はそのころ、ずっとへらへらしてたからねー。天使達のシーンの唱い方、もうちょいCD風にしてくれないかなー、とか。
アオキ で、あなたはどこで崩壊したの?
イワホリ 何度目かの朗読?新曲?でさ、ずっと「元春さんみたいだなー」とか呑気に思ってたんだけれど "この国の大衆音楽であることを、誇りに思います" みたいなことを言ったじゃない?
アオキ あれはダメだ。反則だ。しかもさ、わたくしが聞いたのはNHKホールなわけよ。あの場所で「この街の大衆音楽であることを誇りに思います」って言うのは、まあクるよね。
イワホリ あの言葉で、ようやく15歳の自分と30歳の自分が繋がってくれたというか、この言葉の為に彼の音楽はある、ていうことがすっと入ってきた。
アオキ ああ、すごくよくわかる。
イワホリ

俺のロックンロール・ノートに書いてある、甲本ヒロトさんって人の言葉なんだけれど、ちょっと紹介するね。

「ロックンロールてね、いつ聴いてもいいんだけれど、すごく幸運なタイミングってのがあって、例えばそれは、1950年代にアメリカに住んで、プレスリーを実体験したとか、ビートルズやストーンズが大爆発していた時にイギリスに住んでいた若者たちだとか、凄いラッキーな体験者だと思いません?」

なーんだそういうことじゃん、っていうか。90年代に小沢健二に出会って、音楽をより好きになった、で、2010年の今彼の音楽を聴けるっていうのは、凄く幸福な体験だなって思った。ただ、素敵な音楽がある。それをシンプルに祝福すればいい。ホント、そういう気持ちだけが残った。

アオキ うんうん。なんかさ、「ライヴが見られた」「生の小沢くんがみられた」って以上に、この15年それこそすり減るほど聴いて、甘い想いもしょっぺえ記憶もいやになるほど染みついた楽曲が、彼自身の手によってまたぴかぴかになった気がするんだよね。
イワホリ そうそう。さっき「天使達のシーン」イマイチだったとか言ったけれど、実際、単純に完全再現でもないっつうか、見事に2010年の音だった。
アオキ たとえば「流れ星ビパップ」って、じつは彼の曲の中でいちばん好きな曲なんだけど、もう一昨日までとおなじ気持ちでは聴けなくなった。背後の物語まで含めてのリミックス、みたいなかんじ。そもそも「流れ星ビバップ」が出来たタイミングでは、ああいう物語は付随しえないし。
イワホリ あー、俺はその辺の物語的なところは全くと言っていい程スルーするけどね(笑)。
アオキ あ、そう?(笑)そういうのも含めて、すごく演劇的なステージだなあとも思ったわけです。
イワホリ そこはまだシニカルなのかなー。俺は単純に、音の強度と鮮度には盛り上がったけれど。
アオキ 常日頃音楽的な芝居ばっかり観てるんで、しょうがないです、これはもう(笑)。
イワホリ まぁ、そこは譲るしかないんだけれどさ、例の「ひふみよ」の話とかもさ、決して新鮮な話ではないじゃない?
アオキ うん、目新しい、というはなしではない。
イワホリ 佐藤雅彦級に、ものの見方にコロンブスの卵的な転換を見せてくれた眼の人にしては、割とストレートな表現だなー、っていう感じ。あー、俺やっぱシニカルだわ、ごめんね。
アオキ いや、いいですけど(笑)。
イワホリ あと、一度練習までさせた「ラブリー」の歌詞にしてもさ、"Can't you see the way, It's A" を" 完璧な絵に似た" って言い換える、その言葉使いの巧みさは見事としか言いようがないんだけれど、でも、じゃあ "Life Is Coming Back" を削る事ないじゃん、って思う。
アオキ そう、あれはなー、よくわかんない。
イワホリ ドアノックもさ、やっぱ「みーにみにいんよそー」ってあってこそじゃない?これ、別に歌えなかった消化不良で言ってるんじゃないぜ?
アオキ わはは(笑)。
イワホリ だから、ひとつひとつの演出であるとか、アレンジにそれぞれ意味はあるんだろうけれど、その全てに整合性があるかっていったら俺はそうは思わなかった。もっと単純に、音楽だけが響くショーでよかったのかもな、っていうのが、ー冷静に振り返ってみたときの感想。
アオキ チューニング中の謎の振り付けとかね(笑)。まあ、でも、ああいう仕立てでやりたかったってのはなんだかわかる気がするんだよね。「カローラ2に乗って」が、消費社会に楯突くような語りの文脈に乗って、おもいきりエスニックなアレンジで、バングラディシュの街頭をバックに演奏されるって、すごくわかりやすい表明だなあとは思ったし。自分が共感できるかどうかはべつとしてさ。
イワホリ うん、ここで不覚にも話が戻ってしまうのだけれど、例えば、昔の、王子様に抱きしめられるツアーTシャツを着てきたような人とか、あれを求めてたのかな、とかあれがどう響くんだろ、とは思った。
アオキ まあねえ。好き嫌いはあるだろうとおもう。こと彼に対して冷静でいられないくらい想いがあるひとは特にいろいろ考えてしまいそう。あ、あのね、思い出したタイミングで言うんだけど、朗読のどこかで「メキシコシティに家を借りていたとき」って言ったのが、非常に印象的でさ。ふつう「メキシコシティに住んでたとき」って言うだろうと思って。少なくとも「ひふみよ」のなかでは、徹底的に旅人であろうとしてるんだ、とすごく感じた。
イワホリ 不思議な時間の流れだったよね。radioheadちょっと思い出した、今。ボンボンっぽい浮世離れ(笑)とはちょっと違う、5mくらいだけ浮いてるかんじ。how to dissapear completelyをライブで演奏する、あの感じ。
アオキ あ、あれか。さいアリで見たときのいちばんさいご。
イワホリ まぁCreepでもいいんだけれどさ、「ここに僕はいない」っていう感覚と、「確かにここにいるんだ」っていう感覚が共存するっていうか。この夢のような空間と、「うさぎ!」で散々語られて来た灰色の支配する世界は繋がっているんだよっていうこととか。
アオキ あー、まさに。
イワホリ もっと古典を出すならば、ジョン・レノンだよね。"He's a real nowhere man."
アオキ それでも「想像してごらん」て言うんだよな。
イワホリ ちょっと呼吸を置くと、"He's a real now here man"。「君と僕」だけじゃなくて「世界」を繋げるのがポップ・ミュージックっていうね。まさかオザケンの話をしようとしてジョンの話をするとは思わなかったな。
アオキ ねえ(笑)。
イワホリ そろそろまとめよっか?って、まとめようがないか、これ(笑)
アオキ あ、あのね、お客さんが小沢くんを待ってたのはもちろんなんだけど、小沢くんも、そういうひとたちの前で歌うのを楽しみにしてたんだなあってすごく思った。演出のいろいろな部分を客席に託しすぎだしさ。ブギーバックとか(笑)。
イワホリ はは、コール&レスポンスは確かに多かったよね
アオキ「次の曲、いっぱいうたうところあるから!」じゃねえよっていう(笑)。3000人のスチャダラパーなんてそうそう聴けるもんじゃないよ?しかも完璧な。
イワホリ 何の練習もしてないのにね(笑)。
アオキ 3F席だったからお客さんの声が良く聴こえて、あんまりに面白くてさぁ。昨日スチャがゲストで来たって聞いてもぜんぜんうらやましくなかった(笑)。
イワホリ 「もったいねーなー」(笑)
アオキ やー、ホント相思相愛な時間でしたよ。
イワホリ うん。行ってよかった!
アオキ 1990年代の小沢くんが好きなんじゃなくて、2010年の今も彼のことが大好きだってわかった、そう思えたっていうのは本当にいい経験だった。
イワホリ ま、でも俺、2006年の年末のスピナスで、明け方に「ラブリー」かけた時を勝るオザケン愛はないけどね!
アオキ そうそう、今回チケット譲ってくれた友達さ、生まれて初めて人前でDJやった時に一緒だった子で、交代した時にデッキ間違えて、万感の想いを込めた「流れ星ビバップ」をぶったぎった子なんだよね。時はめぐるわ…。
イワホリ あはははは。ま、そんなこんなでこれからも聴き続けるんだろうね。
アオキ 「たぶんこのまま素敵な日々がずっと続くんだよ!」
イワホリ ととのいました!
アオキ (笑)。
イワホリ あ、最後にひとつ訊きたかった事が。
アオキ はい?
イワホリ まさか、ボーダーのTシャツをお召しになってはいなかったですわよね?
アオキ ぶははははははははは! ねーよ!
イワホリ っていうかさー、行列の時点で、軽く引いたわあれ。
アオキ まあさ、生暖かく見守るしかないよ、あれは…。念のため、質問をそっくりそのままお返ししますけども? スタジオの岩堀さん。
イワホリ 俺はねー、笑うよ?グライコさんの、「ボーイズ、トリコに火を放つ」Tシャツをよりによってチョイス。
アオキ (笑いすぎて涙目)
イワホリ 写真撮られたからね、パンピーに。
アオキ 苦々しさでいっぱい、です。ホントに(ため息)。
(今回はここまで!)
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