アオキ あっという間に師走、そして年末になっちゃいましたね。
イワホリ ええ。というわけで、レディオヘッド感動の来日公演で幕を閉じた2008年だったわけですが。
アオキ …ええと、いきなりそこですか。
イワホリ あぁん?
アオキ …ごめんなさいごめんなさい。
イワホリ いや、もう個人的には、今年というか自分の音楽史にとっても特筆すべきトピックですよ。
アオキ レディオヘッド一本しか見てない?今年って。
イワホリ いや、ちゃんと朝霧も行ったし、去年のサマソニで見られなかった友達のバンドのライブも行ったし、割と充実してましたよ。そういうそちらは、本数だとどんくらいなの?
アオキ えーと、フェスは結局ライジングだけだし、あとはざっと40本くらい?
イワホリ 多いなー。
アオキ 20代前半は100本越えてたからねえ。これでもずいぶんおとなしくなりましたよ。 でも、ひとつのステージって単位で考えると、レディオヘッドは別格だったなあ、と改めて思うな。
イワホリ うんうん。
アオキ あなたのようにながらく貞操 *1 を守ってきたわけでもなく(笑)、彼らの存在を意識し始めてから、わりとあっさりライヴを見るチャンスに恵まれたわけで。正直なところ、楽曲やメンバーに対する思い入れがものすごく強いわけではなかったのに、あんだけ突き動かされるとは思いませんでした。
イワホリ どの辺に突き動かされたの?
アオキ なんだろうね、うまく言えないけど、最初はトムの声にびっくりした。
イワホリ 下手だったよねー。
アオキ ああいう音が人間から出るのか、と思った。人の声には思えないっていうか。
イワホリ 俺はずっと「海辺のカフカ *2」みたいな感じでさ。
アオキ ほう?
イワホリ それこそ18才の「ベンズ」の歌詞カード片手にベッドの上で膝抱えて泣いてた自分と、28才の自分が一緒になって観ている感じでさ。
アオキ 妙に冷静だったよね、なんか。
イワホリ だって、このツアーだけでももう5セット位ブート聞きこんでたし、驚きようがないよ。…ってのが28才の自分で、でもイントロ鳴った瞬間はもう「うっひゃー!」ていう18才がいてさ。からだで反応するのは断然18才の自分なんだけれどさ。
アオキ あー、そういうかんじか。
イワホリ でも俺、「Airbag」の後で「生ではじめてきいたわ、この曲」って言ったからね。
アオキ うはははは!
イワホリ 全部はじめてだっつうのな。だから、終わった時はとにかく「ベンズだ、ベンズ!」って言ってたけれど、今になって思い出すのはとにかく、「イン・レインボウズ」の曲が良かったってことと、それ以前の曲も、「イン・レインボウズ」と並列に溶け込まれてるというか、そういう懐の深いアルバムだったんだなー、ていう感じ。
アオキ なんかさ、彼らの楽曲って今の時点から過去を振り返ると、アルバム単位というかリリース順でわけられたりするじゃない。「Kid A以降」とか。
イワホリ うん。
アオキ で、イン・レインボウズをきっかけにして意識的に聴き始めた後追いの身としては、そのカテゴライズされた楽曲を「確かに変わったわなあ」なんて言ってたわけで。でも、ライヴの流れの中にあって、どの曲もまるで違和感がないってことにすごく驚きがあったのですよ。
イワホリ アレンジも大分、てかかなーり変わってるからねー。
アオキ そうそう。セットリスト見ながら音源並べても、全然違うの(笑)。
イワホリ そうなんだよねー。
アオキ あと、さいアリの一日目と二日目であまりに印象が違ってびっくりした。
イワホリ ああ、WOWOW仕様だからってのもあるのかな。
アオキ ね、あとでその話を聞いたらなるほどなあって思った。
イワホリ 今回のツアーって、事前に50曲位のリハーサル・レパートリーがあって、その中から20曲程度を選んでプレイするっていう、いくつかのパターンがあったみたいでまぁテレビのってのも勿論あるんだろうけれど、箱の雰囲気とかで微調整かけて来たんだろうね。
アオキ ロンドンのブートとか、まるで雰囲気違ったもんね。
イワホリ 東京戻った初日は"All i Need"で始まるっていう静かな立ち上がりパターンだったらしいし。まぁ、そういうところも含めて、懐の深いというか、練り込まれたステージだった。
アオキ

なんていうかなあ、緻密さと柔軟さがいっしょにあるステージだった。照明とかスクリーンの使い方も含めてさ。

イワホリ ちゃんと"rain down-"の歌詞で雨降ったりとかね。
アオキ そう。"Everything -"の時に、歌詞を電光掲示板みたいに流す使い方をしたりと、ビジュアル的にもかなり印象が強かったなあ。
イワホリ まぁでも、全てが音楽の元にある感じでさ。環境問題に配慮してLED *3 がどうのとか、ステージ上でも水筒でお茶飲んだりとか、それこそチベットの旗とかさ、目につくところはあっても、でもそれがトピックではなかった。変な感傷じゃなく、とにかく曲がよかった。…っていうのが28才の自分の感想かな。
アオキ おお、大人の感想だ(笑)。
イワホリ 感傷的なことを書こうと思えば幾らでも書けるんだけれどさ、でももうそういう季節でもないしさ。だってラスト前の曲のブリッジの歌詞が「怯えてたっていいんだ」って歌ってて、最後の最後の曲で「これは起こってなんか無い、僕はここにいないんだ」だよ!?
アオキ あー。。。。
イワホリ 浮いたり沈んだり、遠い海の向こうの理不尽なことを嘆いたり、一晩で金の価値が半減したりとか、耳を塞ぎたくなるようなことは幾らでもある。そんな無力だの絶望だのに押しつぶされる位なら「そこにいない」って逃避することもできる。戦わないことってのは、負けない最善の手段だしね。
アオキ うんうん。
イワホリ でも、そんなこといっても「すべてはあるべき場所にある」んだよ。言葉の洪水とともに。だから、怯えながらも、時には自分を消してしまっても、でも確かにその夜はあった。美しいとか、暖かいとか、そういう感覚を音楽を通じてシェアできたっていうのが、大げさな感動ではないけれど、実感としては確かにあるよね。そんなことずっと考えてたの、帰り道ずっと(笑)。
アオキ なるほどねー。ろくにものもいわずに帰ったと思ったら(笑)。
イワホリ いや、だって楽しくないじゃん、こんな話(笑)。
アオキ いや、聴きたかったよ?(笑)自分はもっと表層的っていうか、言葉の持つ意味まできちんと感じられてたわけじゃないけど、あの空間を「シェアした」って感覚はすごくあったなー。単に「会場の一体感!」てのともちょっと違ってさ。もっとゆるやかでおだやかな感覚。
イワホリ そう。だからみんながそれぞれに感じる部分があればいいんだろうし。それこそ、ミクシイのコミュで誕生日祝うだのなんだので荒れるとかさ、手拍子するしないだで荒れるとかさ、もうそんなのばっかりだったじゃん。
アオキ ああ、うん。
イワホリ そういう気の滅入るような雑音とか、どうでもよくなったからね。
(止まらない話はまだまだつづきます!)

エキシビジョン名物、イワホリの脚注。余談多し。

*1 貞操
07年10月以降、あれだけレディオヘッドに熱を上げていた岩堀ですが、実は来日公演を観るのはこれが初めてでした。ちなみに「holiam gallagher」とか名乗っているくせにオアシスも、「ティム男」とか散々罵っているくせにアッシュも未見。会える気がしない。--- アオキのオアシス初体験は"Standing On The Shoulder Of Giants"ツアー。横浜アリーナスタンド最後列という奇跡的な座席だったので、前列で肩を組んで大合唱するサラリーマンの声しか聞こえないという惨事でした(aok)。

*2 海辺のカフカ
「異なる2つの視点で物語を見ている」ってことが言いたいんだと思います。でも多分、言いたい感じは「アフターダーク」の世界に近いかも。ちなみに「海辺のカフカ」で主人公の少年は「KID A」を聴く場面があり、またトム・ヨークも村上春樹の読者であることを公言しています。

*3 LED
発光ダイオード。環境に配慮する今回のツアーの象徴的な演出として、通常の照明装置よりも省電力なLEDが大々的に使用されていました。 「snoozer」12月号に載っている照明担当アンディのインタビューは必読。あと、全然関係ないけどレッド・ツェッペリン再結成も今年でした。


001 : イワホリ、ようやくradiohead来日を振り返る 2008-12-26
002 : 日常化したフェス、日常から離れるレコ屋 2008-12-27
003 : オマケ化する音源、何にお金を払うのか 2008-12-28
004 : 働け、遊べ 2008-12-30
005 : エンドレス・ディスカバリーズ 2008-12-31


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